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concept Y
(コンセプト ワイ)
めがねの雅

 

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コンセプトY
conceptY
「コンセプトY」は、
メガネデザイナー、兵井伊佐男が、
友人であるY氏のためにデザインし、
生まれたメガネである。

「コンセプトY」のデザインで追求したことは、従来のメガネのデザインに多い「人からどういう風にみられるのか」というファッション性をフォーカスしていくアプローチではなく、「より顔と一体化していくような掛け心地」にあった。つまり機能性を重視した、人とメガネの理想的な形の追求であり、四角いメガネが丸い顔にあるのではなく、はり出さず、メガネが顔に合わせて一体化するようなフレーム構造のデザインである。

Atelier

concept「Y」 EYEWEAR COLLECTION

【兵井伊佐男 HYOI ISAO  ワンオフ工房 代表】

意匠デザインのみならず開発のための工房を構え独自にメガネの研究開発を行う。
2004年度より福井県デザインセンターの助成制度を活用し、オリジナルブランド「コンセプトY」の量産に乗り出す。

JIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)正会員。
1956年 福井県生まれ。
1985年 株式会社村井(デザイン室)入社。
1992年 甲府ジュエリーデザインコンペ入選。
1992年 国際刃物デザインコンペ優秀賞。
1994年 フリーデザイナーとして独立。「ワンオフ工房」
1996年 国際めがねデザインコンペ金賞。
1998年 アイウェアオブザイヤー受賞(I・SA・O)。
2000年 Gマーク受賞(HITT)
2001年 Gマーク受賞(HITT)>
2004年 コンセプト「Y」を発表。同年Gマーク受賞

【メディア掲載履歴】

ONEOFF工房、CONCEPT「Y」が掲載されたメディアをPDFでも、ご覧いただけます。
PDFをご覧いただくにはAdobeAcrobatReaderが必要です。

Design News 269号
1、Design News 269号 P38,P39,P40,P41

【兵井伊佐男のデザインワークとその新たな挑戦】

 「コンセプトY」は、メガネデザイナー、兵井伊佐男が、友人であるY氏のためにデザインし、生まれたメガネである。兵井氏は、福井に居住し、福井の地場産業である眼鏡デザインに長年携わってきた。代表作には、発売以来10年のロングセラー商品「フーガ」がある。市内に工房を構え、デザインからプロトタイプの製作まで一人でこなすフリーのデザイナーである兵井氏。彼のデザイン開発や、デザイナーの視点から企業にプレゼンテーションする場合もある。しかし「コンセプトY」の場合は、日常のデザインワークの中で、少し違ったプロセスから生まれたメガネなのである。
 兵井氏には多彩な経歴があり、独学でギターをデザインしたり、1リットルのガソリンでどこまで走れるかを競うエコランレースにも参戦している。しかもメカ好きで、大のクルマ・マニアである。それは、ホンダS800クーペに乗っていることからもうかがえる。
 そしてこの「コンセプトY」の誕生は、同じくS800クーペのオーナーで意気投合したY氏のメガネが、合う度にいつも傾いているのを気になって仕方がなかったところから始まる。ちょくちょく直してあげるのだが、次に会う時にはまた傾いている。Y氏は顔幅があり前後にも長く、イヤーピースがちょこんと耳に乗っかっている状態。加えて、顔幅に合わせてレンズが大きく、強度の近視なのでレンズが厚く重い。そこで彼のために新しいフレーム探しをするのだが、レンズの小さなフレームは幅も狭く、腕(テンプル)も短いので、最低でも腕を特注しなければならない。そこで、いっそ彼のためにオリジナルのデザインを作ろうと思いたったのが「コンセプトY」のスタートだった。
 このメガネは試作され(P38写真下、上リムのモデルに近い)、それをY氏が気に入って使っており、また、兵井氏自身もその新しいフレームのデザインに自身を持っていた。その後、大手眼鏡メーカーに、このモデルの商品化のアプローチを何度も試みるが、結局、メーカーの興味を惹くことはできなかった。
 通常であれば、この段階でデザインは消滅する。しかし、兵井氏は、「Y氏が気に入って使っていること」「田中眼鏡本舗という同じく地元の友人の心強い小売店があること」そして「新たな設備投資をしなくても量産できるのではないかということ」、
このことから自らつくることを決断し、自身が量産し、販売するという方法にチャレンジした。そして、発売されたのが「コンセプトY」である。Y氏のための試作が完成したのが2001年11月、デザイナーメーカーとして量産モデルの発売開始は、2004年5月である。

【顔と一体化するメガネ】

 「コンセプトY」のデザインは、従来の常識をかえるような、メインフレームからレンズの支持枠(レンズリム)を分離したところにそのポイントがある。これによってメガネフレームはより顔と一体化し、分離することによって、レンズはフレームに影響されることなく、眼に対して最適な位置を調整できる。また、顔幅の大小は、ブローバーの折り返しによって調整され、頭を包み込むようにフィッティングすることができるのである。これにより、レンズは真っ直ぐ、フレームは顔に合わせて包み込むようにフィットする立体的なフレームが完成した。実際に掛けてみると、掛けているのことを忘れてしまうくらい軽くて心地よい。そのフィット感がこのメガネの特徴といえるだろう。
 兵井氏が「コンセプトY」のデザインで追求したことは、従来のメガネのデザインに多い「人からどういう風にみられるのか」というファッション性をフォーカスしていくアプローチではなく、「より顔と一体化していくような掛け心地」にあった。つまり機能性を重視した、人とメガネの理想的な形の追求であり、四角いメガネが丸い顔にあるのではなく、はり出さず、メガネが顔に合わせて一体化するようなフレーム構造のデザインである。Y氏という一人の友人のためにメガネをつくる企画の原点は、この新しいフレーム構造を生み出した。それは多くの人たちに共通した、メガネデザインの問題を解決するための、次のレベルへと踏み出すきっかけとなったように思われる。

【新たな挑戦】

 プロダクトデザインは、スケッチ、図面、モックアップ、などによって、そのイメージするデザインを創り上げていく方法である。それは、別な見方をすれば、最初の段階のリサーチから、デザイン、設計、生産、販売ちうプロセスの中で、その考えやイメージの一貫性を確認しながら進むプロセスである。全体の構想から細部のデザイン処理まで、実際につくりながらでないと分からない領域があったり、そのプロセスからもっとエレガンスなアイディアや細かな改良が生まれる。その意味ではつくりながら考え、考えながらつくるアプローチといえるだろう。
 「コンセプトY」は、これまでのメガネ作りの発想から離れて、メガネをまったく新しいプロダクトとして捉えている。プロダクトデザインとして見つめるところから生まれたデザインといえるだろう。たとえば、6つの構成パーツである、ブローバー、レンズリム、テンプル、ノーズパット、ヒンジパーツ、イヤーピースは非常に単純化されている。しかし、それらは細かな改良や二次加工を重ねながら生み出されている。ブローバー、レンズリムはステンレス、テンプルはベータチタンという素材を選択一つをとっても、それは、強度やしなやかさの違いから掛け心地のバランスとった結論であり、フロロカーボン線を結んで止める方式も法井氏独自の線の切れない新しい解決でる。組み立てのプロセスは、一つ一つが手づくりで、ローテクなように思われるが、兵井氏が眼鏡デザインで長年培ってきた高度な技術や知識が反映している。専用の工具類やロウ付け作業の治具を自らが製作するところにもそれが窺える。それらの技術の集まりが、変形しないフレーム構造を生み、ミニマムな構成パーツをつくり出し、まるで頭の一部になったかのような一体感、掛け心地を生むのである。
 現在メガネのデザインは、成熟したファッション産業として捉えられている。デザインをどんどん変化させ、形の新しさや面白さを追うように新しいモデルが投入されている。その中で、兵井氏が提示した「コンセプトY」は、見時流に反しているように思われる。しかし、このメガネを実際に掛けたときに感じられる新しい使用感や掛け心地の良さは、Y氏と同じようにそのメガネに出会った人の多くが発見することができる価値なのである。それは、メガネとは、装飾の道具ではなく、医療用具でもない、蝕感のプロダクトであることを気づかせてくれる。兵井氏は「コンセプトY」によって、メガネと顔が一体化するという、メガネの未来の在り方を示し、可能性を切り開いているように思われる。それは、自ら作ることで情報発信していくデザイナーメーカーとして、新たな挑戦に踏み出した兵井氏にとってもターニングポイントとなるデザインなのである。
 兵井氏は工房で「コンセプトY」の進化やセカンドラインの新たな展開を目指している。「今までのメガネのスタイルに甘んじるのでは出てこない新しい使用のスタイルがつくられないものか。」プロダクトデザイナーは今日も繰り返し考える。
  • 「コンセプトY」を量産するためのロウ付けの治具も兵井伊佐男自身が開発したものである。写真は、ロウ付け作業(ガストーチによる)の兵井伊佐男と「コンセプトY」をつくるための専用の工具。(左)
  • ワンオフ工房は、福井市内にある。20年前に移築された古い小学校の校舎の一階を倉庫として賃貸してるものを改造して使用している。写真右は、工房内部。メガネ開発に必要な機材を揃えて、思い立ったらその場で形にできるデザイン環境をつくり出した。
  • レンズリムは自動機で製作し、ワンオフ工房に納品されるが、フック部の形状は、手作りの専用パンチを使って整形する。
  • テンプルの形状は単純なので、線材を一定の長さで切断し、専用のヤットコで一本一本U字部を成形する。
  • ヒンジパーツに縦の溝を入れる作業。ヒンジパーツも外注されるが、二次加工は工房で行なわれる。
  • 兵井自身が開発したロウ付け作業のための治具。
  • テンプルのU字部ヒンジパーツを取り付ける。U字部をヤットコで広げてヒンジパーツをパチンと差し込む。
  • レンズは、フロロカーボンの線をリボンで引き廻して固定する。
  • テンプルをフレーム本体(ブローバー)に取り付け、手で内側にまげて調子を取る。
  • 「コンセプトY」のフレームカラーは10色。ヒンジパーツは、2色(ブラック、ホワイト)がある。
  • 「コンセプトY」の販売は、当初、友人である田中求之のセレクトショップ田中眼鏡本舗から始まった。写真はオーナーの田中さんと店員の小林さん。左は、ホームページ(www.t-honpo.com
(2005年3月10日 財団法人日本産業デザイン振興会発行 丸善発売)「コンセプトYができるまで」より転載
PDF(3.4MB)

Design News 269号
2、デザインの現場 137号 P64

【次世代に引き継がれるメガネフレームをつくる】

 福井市在住のメガネデザイナー兵井伊佐男さんは、今年1月に東京六本木のアクシスビル内にある、日本インダストリアルデザイナー協会のデザインミュージアムで、“あるメガネ”の展示会を開いた。
 そのメガネを開発するきっかけとなったのは、友人であるY氏。彼は強度の近視で顔幅が広い。近視用のレンズは度数が上がるほどエッジが厚くなる特徴があるため、彼のレンズは必然的に分厚く重いメガネとなる。そこで、いつも変形しやすいY氏のメガネを直してあげていた兵井さんは、彼のためにフレーム形状に影響されず、レンズを自由にフィッティングできるメガネのデザインを考えた。それが“コンセプト「Y」”の始まりである。
 通常、メガネのフレームにレンズを取り付ける場合、個人の瞳の位置に合わせて光学中心を調整して固定していく。しかし、このメガネはレンズとフレームを分離。レンズに影響を与えることなく、あらゆる顔幅に合わせて包み込むようにフィッティングすることができ、また、逆にレンズはフレームに影響されず、目に対して最適の位置に微調整できるようになった。
 「普通のメガネは平均化されているため、大半の人には合わせることが可能です。しかし、Y氏のようにそこから外れる人もいます。このメガネをつくりながら、100人中1人でも『これでないとダメ』という人が存在するなら、それはすごいマーケットになると考えました。」
 コンセプト「Y」の掛け心地を気に入ってくれたY氏の様子を見て、なんとかこれを量産したいと考えた兵井さんは、鯖江のメガネメーカーに持ち込んだが、首を縦に振るメーカーはなく、最終的に自分がメーカーとなり生産することを決断した。
 「確かに鯖江は欧米の有名メーカーから生産の依頼がきます。鯖江は世界的にも知られるメガネ産地で、注文があればどんな難題もクリアする高い技術力を持っています。しかし、リードする技術力は持ち合わせていても、リードするデザインを育てようとはしません。そんなデザイナー不在の高級OEM産地としての鯖江に、これまで僕はデザイナーとして大変情けない思いを募らせてきました。」
 コンセプト「Y」はひとつひとつ手でパーツをつなぎ合わせてつくるローテクなメガネだ。しかし、組み立てるプロセスはローテクでも、パーツひとつひとつに鯖江で培われた高度な技術が生かされている。さらに、線材でつくられているため、製作時にゴミが出ることがほとんどなく、過剰なプレス工程を省くことで線材本来の特性を生かしたフレキシブルなメガネをなっている。
 「僕は20年間デザイナーとしてものづくりに携わってきました。その中で、より高度な技術の製品が世の中に送り出されるほど、地球環境に負荷を与えていることを常に実感してきました。たった一本のメガネであっても、大量消費を支える20世紀型のものづくりの中では多くの廃棄物を生み出します。だからこと、ローテクでシンプルなロングライフなメガネを目指しました。その結果コンセプト「Y」が、鯖江産地の目指している高度な技術力を駆使したモノづくりとは逆を行くメガネになったのはちょっと皮肉です。」
 10月1日、2004年度グッドデザイン賞の発表があった。兵井さんのコンセプト「Y」は商品デザイン部門、身のまわり商品で受賞を果たした。
  • フロントの部分はステンレス、テンプルはβチタンを使用。丸線でシンプルな構成にすることで、フレキシブルなデザインと耐久性に富んだメガネが生まれた。
  • フレームを頭部に包み込むようデザインしてあるため、違和感のない優しい装着感が実現。
兵井伊佐男(ひょういいさお)
1956年福井生。メガネメーカーのデザイン室を経て、94年に独立。「ワンオフ工房」を構える。JIDA会員。
(2004年12月5日 株式会社美術出版社発行)「FACE」より転載 取材・文/松本希子
PDF(1.3MB)

Design News 269号
3、AXIS Vol.109 P143

【兵井 伊佐男】

1956年福井県生まれ。メガネメーカーデザイン室勤務を経て、94年に独立。自らの工房を福井の地に構える。単なる意匠のみならず、独自にメガネの研究開発を進め、2004年に「コンセプトY」として発表。同年1月、AXISビルのJIDAデザインミュージアムで「うらがやっか」展を開催した。

Born in Fukui Prefecture in 1956, Isao Hyoi first worked in the design office of a glasses manufacture before going into business for himself in 1994 and setting up his own studio. Not only does he produce designs and ideas, but he also conducts his own research and development, and will be bringing out the Concept Y in 2004.

 「コンセプトY」は、私の友人Y氏のためにデザインしたメガネです。強度の近視であり、顔が大きい彼のためにフレームとレンズが分離したメガネをつくったのがこのプロダクトの始まりでした。彼はでき上がったメガネを見て、あまりにも華奢なフレームなのでたやすく変形してしまわないかと、初めは不安そうでしたが、それ以来、2年以上の使用に耐えています。また、今までにないデザインでありながら、最初から違和感なく彼の顔に溶け込んでいました。このフレームは今年の春から私の工房で量産を開始しています。
 このメガネはあらゆる頭部形状にフィットし、また左右の眼球の適正な位置にレンズを移動できるのが特徴です。そして、いったんフィッティングすれば、フレームのすべてが弾性素材でできているので、容易には型くずれしません。メガネ全体がプルプルと振動する様は、まるで生き物を扱っているようにさえ感じることがあります。
 従来のメガネづくりの発想からはいったん離れて全く新しいプロダクトとしてコンセプトづくりを行ったメガネ。例えば、「コンセプトYスタンバイ」は“起つメガネ”です。その使用シーンは、使う人々の想像力によって自由に膨らんでいくことでしょう。
(2004年6月1日 株式会社アクシス発行)「Creators' Work and Soul」より転載
PDF(1.6MB)

Design News 269号
4、眼鏡総合専門雑誌 眼鏡 569号 P120,P121,P122
 福井のフリーメガネデザイナー、兵井伊佐男氏が自ら製作まで行うオリジナルブランド「コンセプトY」を立ち上げた。単にファッションや形を追い、大量に売れることだけが喜びではないデザイナーの思いが込められている。それらを理解し共感する店「田中眼鏡本舗」(福井市)代表の田中昌幸氏と兵井氏に話を聞いた。

“山田さん”の悩みを形に

 田中:当店では、コンセプトYを話題にしようと、一番目立つカウンターの上に置いています。他のメガネを購入する方にも「福井のデザイナーが自ら作ったんですよ」と伝えていくことが目的でした。不思議な形をしているのでお客様は興味を示します。別のメガネの購入を決めてからこちらに変更するケースが何回もありました。掛けやすいという点で驚かれることが多いし、特に強度の近眼の方に薦めやすいです。商品に親近感を覚えるという点もあるでしょう。タイミングがよければ、兵井さんとお店で会うこともできるのですから。
 兵井:田中さんが薦めやすいと言うように、強度の近視の方を意識してデザインしており、「Y」というのは私の友人の「山田さん」なんです。山田さんは顔が大きく強度の近視で、レンズも大きくて分厚いメガネを掛けていました。彼はメガネに満足したことがなくて、主にコンタクトを使用していました。そこで山田さんのために、フレームとレンズが分離したメガネをデザインしたのです。顔に合わせてフレームを大きくしてレンズを小さくし、別々にフィッティングできれば、彼の悩みが解消されるのではないかと思ったのです。彼はコンタクトからこのメガネに変えました。
 田中:そういう例は多いです。確かに強度の近視で悩んでいる人は多いですからね。ガラスレンズしかだめだという固定概念の人にお薦めしたところ、すごく感動されました。お客様は、購入の際に手間を掛けてもらいたいという欲求があります。この商品に関してはとことん手間がかかるし、手が抜けない商品です。だからこそお客様の満足度は、格段高いのです。
 兵井:そうなんです。実は、売る側にとって、やっかいな商品なんですよ。他のメガネより多くの説明が必要ですが、それをしないと商品の魅力が半減してしまいます。自由自在であるがゆえに、フィッティングも重要な要素です。

消費者にはストーリーをデザイナーには使い手の声を

 田中:当店は福井にあるということから、産地のデザイナーやメーカーの人が来られる機会が多いです。兵井さんもその1人でした。このコンセプトを聞いたときは、とても感動しました。販売では、コンセプトYができるまでのストーリーをつけてお客様にお渡ししています。単なる工業製品と違い、お客様の満足度は高いですね。産地の小売店として私にできることはデザイナーやメーカーの方にお客様の声をダイレクトに伝え、完成度の高い商品を作っていただくことです。もちろん、お客様の声は全部、兵井さんに伝えており一方的ではなく、お互い意見交換も行なっています。
 兵井:これまでもメガネの試作はしてきましたが、自分で作ることになるとは思いませんでした。しかしこのメガネは、従来のように多くの工程も必要なく、自分の工房で作れるのではないかと気がつきました。不良品に関しても、これまではメーカーが対処してくれていましたが、直接、自分のところに戻ってくることになります。うれしい反面、怖くもあり、デザインだけの仕事で済まなくなりました。
 田中:兵井さんのようなデザイナーやメーカーが増えてほしいですね。言葉では簡単でも、実際、この取り組みはとても大変です。福井の産地にも言えることですが、デザイナーやメーカーはもっと販売店側に近づいていただきたいですし、我々もそうあるべきです。販売店は、いい商品を置いてないとお客様に振り向いてもらえません。双方がもっと協力し合う姿勢が必要です。デザイナーやメーカーがいいモノを作ってくれることでお客様に喜ばれ、お店や業界全体の信頼も高まります。

真の顧客に向けた商品作りのためもっと売り手と作り手の連携を

 兵井:これまでは自分のデザインを世の中に送り出していくためには、まず、メーカーを説得することが必要でした。妥協することも多いし、知らない間にデザインが変更されていたり、玉型が増えていたこともありました。コンセプトYでは、自分がデザインしたモノを自分で作るのですから、初めて妥協なしで販売までこぎつけた商品です。もちろん、そこには田中さんという良き理解者の存在があり、ダイレクトに伝えてくれる消費者の声は真摯に受け止めています。
 1月にJIDA((社)日本インダストリアルデザイナー協会)の会員が集まる東京のAXISビルで「うらがやっか展」という個展を開きました。「うらがやっか」は福井弁です。誰もやらないなら自分でやるしかないという思いでした。福井県デザインセンターの「新商品創出デザイン活用普及事業」を活用し、成果発表の機会を得ました。会場にはインダストリアルデザイナーの方や一般の方が大勢来られ、さまざまな評価や声そ聞いて参考になりました。これまではメーカーの意見を聞くばかりでしたからね。  田中:結構、メーカーの思い込みで商品が作られていた部分があるのではないでしょうか。製造段階で販売店側と連携し、真剣に話してもらえれば、こちからかもさまざまなことをメーカーに伝えることができます。我々も優れた商品作りに参画したいのです。  兵井:メガネという商品は、良くても悪くても半年から1年でモデルチェンジされていきます。今のメガネはファッションが切り口となり、形が面白い、見た目が変わっているということが着目されています。その部分は否定しませんが、本当に強度の近視などで困っている人の役に立っているのか、問いかける必要があるのではないでしょうか。  田中:そういったお客様に、購入した際、喜んでいただくことは、私たちにとっても大きな喜びであり、格別な思いがありますね。  兵井:これは説明だけでなく、販売店側の技術も必要な商品です。単に売りっぱなしではなく、お店がお客様とともに作っていくメガネで、その結果、その方だけのメガネになります。山田さんのためのメガネ、という当初のコンセプトはまったくそのままです。コンセプトが理解されないまま売れても意味がないと思います。  田中:メーカーは販売店でのことや、エンドユーザーを充分理解していないのではないかとおもうことがあります。ひととおりの機能は把握していても、フィッティングに密接に関わる素材の性質を分かっていない例もあります。メーカー、販売店双方に責任がありますね。お互いが意見を交換し、切磋琢磨しないと眼鏡業界の発展はありません。まず値段の話というのではあまりにも悲しすぎます。業界全体が良くならないことには、個々の企業や店の発展はないのです。自分だけがいいというのはあり得ません。  兵井:確かにそうですね。作る側が本当に消費者を指して「お客様」と言っているか疑問です。架空の客を描き、追いかけているケースが多いように思います。メーカーから「大量の注文が入った」と伝えられただけでは本当の喜びにはなりません。商品についてた中さんから逐一報告があり、実感が湧きますね。本当の顧客満足をないがしろにして、売上などの数字だけ追いかけていくことには疑問を感じています。これからも産地から発信していきたいと思います。  田中:このシステムは理想の商売ですね。理想論だと言われようと、理想を追いかけなくてどうする、って言いたいですね。  兵井:今回、私が見てきたのは「山田さん」です。近くの困っている人の役に立てたことで、デザイナーという仕事への誇りを実感しました。
(2004年5月15日 眼鏡光学出版株式会社発行)「眼鏡」より転載
PDF(2.3MB)

Design News 269号
5、JIDAミュージアムセレクションVol.6 P14,P15
 兵井氏(本商品デザイナー)の友人Y氏は、近視が強く、フチの厚い眼鏡をかけていた。近視用レンズは度に比例しエッジが厚くなるという問題を抱えている。そこで兵井氏はフレームの形状に影響されずにレンズを自由にフィッティングできる構造の眼鏡のデザインを始めた。
 これまでの眼鏡フレームにレンズを取り付ける場合、小売店で個人の瞳位置に合わせて光学中心を調整し固定するわけだが、考案した眼鏡はレンズの支持枠をメインフレームから切り離し、それらをアーム状のロッドを介して保持するためレンズを前後に調整できる。これにより瞳からの距離を短くし、視野角を保ちながらレンズを小さくする事に成功した。それはエッジの厚さを薄く見せられることを意味している。
 こうしてできあがったものをY氏にモニターしてもらい、改良を重ねデザインバリエーションを増やし、福井県デザインセンターのデザイン助成金制度を利用して世に送り出す事ができた。
 この歴史に残る眼鏡のアイデアは、彼らの強いパートナーシップによって生まれたのかもしれない。眼鏡シリーズ名は、Y氏の名前に由来するという。
(解説/倉方 雅行)

Mr. Hyoi, the designer of product, was a friend of Mr. Y, who suffered from severe myopia. The frame of his glasses became thicker and thicker. This became more and more of a problem. Then Mr. Hyoi tried to design glasses. The structure can be adjusted freely without affecting the form of the frame.
As for lenses installed in conventional frames, they can be adjusted to individual position of the pupil and the optical center only at the retail store. But the glasses designed by Mr.Hyoi aimed at separating the frame supporting the lens from the main frame. He also designed the side piece in such a way that you can adjust the lenses in the front and back. Due to that, the design succeeds in making the lens small and positioning it only a short distance away from the pupil while maintaining the angle of vision. This also means that the thickness of the edges is thin.
Monitored by Mr. Y, the product undewent repeated improvement and increased variation in design. Finally, the development was supported by a grant from Fukui Prefecture's design center, and thus it became possible to send it out to the world.
Perhaps the idea for theses glasses, which remains history, was born of their strong partnership. As for the series' name, , it was derived from the name Mr. Y.
(Commentator/Masayuki Kurakata)
(2004年4月1日 社団法人日本インダストリアルデザイナー協会デザインミュージアム委員会発行)「JIDAミュージアムセレクションVol.6 図録」より転載
PDF(1.3MB)

「ワンオフ工房」提供資料より転載させていただきました。 上記各社様に感謝申し上げます。

Atelier

concept「Y」 EYEWEAR COLLECTION

「ワンオフ工房」http://www.concept-y.com/


 

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